File33-M29_AI02【法医学的考察】「外傷なき死」のメカニズム:プラズマライターと心停止の相関

**記事ID:** CaseFile_02_Forensic

**分類:** 法医学 / 科学捜査

**作成者:** 元設計技術者・健太

序論:なぜ「死因不詳」が多発するのか

旭川周辺で相次ぐ不審死において、最も不可解な共通点は**「目立った外傷がない」**ことです。

暴行を受けた形跡がないにもかかわらず、健康な若者が突如として命を落とす。あるいは、入水自殺に見せかけられているが、その直前の行動に説明がつかない。

本稿では、元設計技術者の視点から、特定のデバイス——**「プラズマライター(電子ライター)」**——が凶器として使用された場合の致死メカニズムと、それが現在の検視体制において「完全犯罪」となり得る理由を工学的に検証します。

1. 凶器のスペック:7000Vの「見えない刃」

市販されているプラズマライターは、一見するとただの着火器具ですが、その内部回路は強力な高電圧発生装置です。

*   **出力電圧:** **7000V 〜 15000V**(製品による)

*   **出力電流:** **数mA 〜 10mA程度**

*   **電流特性:** **直流(DC)**

    *   ※3.7Vのリチウムイオン電池を発振回路で交流に変換し、昇圧トランスで7000Vまで昇圧後、整流して直流に変換しアーク放電を生成します。

スタンガンとの決定的な違い

護身用スタンガンは、相手を無力化するために「痛み」を与えるよう設計されており、パルス波(断続的な電流)を用いることでエネルギー総量を抑えています。

一方、プラズマライターはアーク放電を維持するために**「継続的な直流」**を流し続けます。また、あくまで「着火器具」として販売されているため、人体への安全性を考慮したリミッター(電流制限回路)が存在しない製品が多く、殺傷能力という点ではスタンガンよりも危険な側面があります。

2. 致死メカニズム:心停止とショック死

「電圧」が高いだけでは即死には至りませんが、電圧によって体内に「電流」が流れることで組織や器官が損傷します。

皮膚の表面抵抗は通常数kΩ〜数MΩあり、電気を通しにくい「絶縁体」として機能します。しかし、**「粘膜」**は別です。

危険なシナリオ:粘膜への通電

もし、このデバイスが**口腔内やその他の粘膜**に押し当てられた場合、以下のプロセスで致命的な事態を招きます。

1.  **低抵抗:** 粘膜は水分を含んでおり、電気抵抗が極めて低い(数百Ω以下)。

2.  **バイパス:** 皮膚の絶縁層を無視して、電流がダイレクトに体内へ侵入する。

3.  **心臓への到達:** 粘膜から侵入した電流が心臓へ流れる。

推定される死因

必ずしも心室細動(Vf)だけが原因とは限りません。以下の複合的な要因が考えられます。

1.  **心筋の強直性収縮(Tetany):**

    直流電流が流れることで、心臓の筋肉がギュッと収縮したまま固まってしまう状態です。プラズマライターは数秒間継続して電流を流すことができるため、その間、心臓がポンプ機能を失います。

2.  **電気信号の撹乱:**

    心臓を制御している生体電気信号はマイクロアンペア(μA)レベルです。そこにミリアンペア(mA)レベルの電流が干渉すれば、制御不能に陥ります。

3.  **神経原性ショック:**

    敏感な粘膜部に高電圧のアークや電流を受けることによる激痛は、自律神経系に強烈な反射を引き起こし、ショック死に至る可能性があります。

3. 法医学の盲点:「証拠」は残るのか?

ここが最大の問題点です。この手口が「完全犯罪」になり得る理由は、**死後の痕跡の少なさ**にあります。

A. 熱傷(やけど)の欠如

*   **アーク放電させた場合:** 電極を少し離して放電させれば約1000℃の熱が発生し、3mm程度(端子間距離)の線状あるいは点状の火傷が残ります。

*   **押し当てて通電した場合:** 電極を粘膜に密着させてからスイッチを入れた場合、アーク放電(火花)は発生しません。ジュール熱による損傷は発生し得ますが、放電痕のような明確な炭化は見られず、**「口内炎」や「小さな傷」程度にしか見えない**、あるいは目視では判別できない可能性があります。

水死体として発見された場合、ふやけた粘膜からこの微細な痕跡を見つけ出すことは、極めて困難です。

B. 死因の誤認

解剖を行っても、心臓自体に物理的な破壊痕(破裂など)はありません。

*   **水中の場合:** 肺に水が入っていれば「溺死」。

*   **低温下の場合:** 「凍死」。

*   **それ以外:** 薬物反応がなければ「急性心不全(原因不明)」や「青壮年急死症候群」として処理されるリスクが高いのです。

4. 捜査関係者への提言:何を探すべきか

もし、現場の捜査員や検視官がこのブログを読んでいるならば、以下の点を確認していただきたい。

1.  **粘膜の微細な損傷:**

    口腔内(舌の裏、頬の内側、喉の奥)だけでなく、**あらゆる粘膜部分**を確認してください。通常の炎症とは異なる、並列した2点の痕跡や、不自然な発赤がないか。

2.  **眼球結膜の溢血点:**

    窒息や強いショック死に見られる、まぶたの裏の点状出血。

3.  **所持品の再検査とDNA鑑定:**

    *   被害者や容疑者の所持品の中に、タバコを吸わないのに「電子ライター」が含まれていないか。

    *   もし電子ライターが押収されている場合、その**放電端子(電極部分)に被害者の皮膚片やDNAが付着していないか**を徹底的に検査してください。犯行に使用していれば、微細な組織が残存している可能性があります。

結論

「外傷がない」ことは「事件性がない」ことを意味しません。

むしろ、**「外傷を残さないための専門的な知識と手口」**が介在している証左である可能性があります。

科学は嘘をつきません。しかし、見るべき場所を知らなければ、科学もまた沈黙してしまいます。

この「見えない凶器」の存在を前提とした再捜査が、真実への唯一の鍵となるでしょう。

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